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家族信託と成年後見の違いは?メリット・デメリットや適したケースを解説

判断能力が低下した際の財産管理方法としては、家族信託と成年後見制度が主な選択肢となります。


家族信託は財産管理の自由度が高い一方、成年後見制度は裁判所の監督下で本人を守る仕組みとなっています。高齢化が進む現代において、親の認知症に備えたい子世代や、自分の老後資産の管理・相続を考え始めた方にとって、どちらの制度を選ぶべきかは重要な選択です。

この記事では、両制度の違いや特徴を詳しく比較し、最適な制度を選ぶための判断材料を提供します。

家族信託と成年後見の違い

家族信託と成年後見制度は、いずれも判断能力が低下した際の財産管理を目的とした制度です。しかし、その仕組みや利用方法には大きな違いがあります。


また、成年後見制度には「法定後見」と「任意後見」の2種類があり、それぞれ開始時期や財産管理人の選び方が異なります。

ここでは、家族信託と成年後見(法定後見・任意後見)の主要な違いについて、比較項目ごとに詳しく解説します。

比較項目 家族信託 任意後見 法定後見
仕組みと利用目的 家族等に財産を託し、契約内容に沿って管理・運用・処分を行う 判断能力が低下する前に契約を結び、将来に備えて任意後見人が財産管理や身上監護を行う 判断能力が低下した後に、裁判所が選任した法定後見人が財産管理や身上管理を行う
財産管理人 信託契約した受託者 判断能力があるうちに契約した任意後見人 裁判所が選任した法定後見人
対策を取るタイミング 判断能力が低下する前(例外あり) 判断能力が低下する前(例外あり) 判断能力が著しく低下してから
開始時期 信託契約を結んだ時点から有効 判断能力が不十分になり、後見監督人が選任されたとき 判断能力が著しく低下し、後見監督人が選任されたとき
監督機関 特に規定なし(信託監督人や受益代理人を指定可能) 家庭裁判所・任意後見監督人 司法書士や弁護士などが監督人に選任されるケースあり
不動産の管理・処分 信託契約内容の範囲内において可能 合理的理由があれば処分可能 住居の売却は家庭裁判所の許可が必要
初期費用

・専門家への相談料(信託財産の1%が目安)
・公正証書作成費用など

司法書士への依頼:10~20万円程 司法書士への依頼:10~20万円程
1ヵ月あたりの費用 原則なし(受託者の報酬を設定可能) 任意後見人への報酬
・親族:0〜6万円程/月
・専門家:3〜6万円程/月
法定後見人への報酬
・2〜6万円/月

仕組みと利用目的の違い

家族信託が「財産管理の自由度と柔軟性」を重視するのに対し、成年後見制度は「本人の保護と生活の安定」を重視します


家族信託は、本人(委託者)が判断能力のあるうちに財産を信頼できる家族に託し、契約内容に沿って柔軟な財産管理を可能にする仕組みです。あらかじめ不動産や金銭などの財産を信頼できる家族に託し、管理・処分を任せることが主な目的です。


一方、成年後見制度の目的は、判断力が低下した際の財産や生活を守ることにあり、本人の保護に重点が置かれています。


任意後見では、本人が判断能力のあるうちに将来に備えて契約を結び、判断能力が低下した際に任意後見人が財産管理や身上監護を行います。

法定後見は、すでに判断能力が低下した後に裁判所が関与して始まる仕組みで、裁判所が選任した法定後見人が財産管理や身上管理を行う仕組みです。

財産管理の方法の違い

家族信託では、信託契約を締結した受託者が財産管理を行います。受託者は信頼できる人を自由に選択することが可能です。


任意後見は、本人の判断能力があるうちに契約した人が管理する仕組みです。


法定後見は裁判所が選任した人が管理を行い、司法書士や弁護士などの専門家が選出されるケースもあります。


家族信託は受託者を自分で決められるため自由度が高い反面、任意後見人や法定後見人は制度の枠組みの中で選ばれるため、必ずしも希望通りの人が選ばれるとは限りません

対策を取るタイミングと開始時期の違い

家族信託は、原則として判断能力が低下する前に契約を結ばなければなりません。ただし、判断能力が低下してからでも、状況によっては可能なケースもあります。開始時期は信託契約締結時からとなるため、契約後すぐに効力が発生します。


任意後見も、原則は判断能力が低下する前ですが、判断能力が低下してからでも状況によっては可能なケースがあります。開始時期は判断能力が不十分になり、家族などが家庭裁判所に申し立て、後見監督人が選任されたときからです。


法定後見は、判断能力が著しく低下してからに限られます。開始時期は判断能力が著しく低下し、家族などが家庭裁判所に申し立て、後見監督人が選任されたときからです。

このように、家族信託と任意後見は事前の対策として有効であり、法定後見は事後的な対応となる点が大きな違いです。

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監督機関の違い

家族信託の監督機関は特に規定されていません。ただし、信託契約内で信託監督人や受益代理人を指定することが可能であり、必要に応じて監督体制を整えられます。


任意後見の監督機関は、家庭裁判所が選任した任意後見監督人と家庭裁判所です。監督人には司法書士や弁護士などの専門家が選出されるケースがあります。


法定後見の監督機関は、司法書士や弁護士などが監督人に選任されるケースが多く、家庭裁判所の監督下で業務を行います。

家族信託は自由度が高い反面、任意後見や法定後見は第三者による監督があることで、本人の権利を守る仕組みが整っています

不動産の管理や処分の違い

家族信託では、信託契約で定めた範囲内において不動産の管理・処分が可能です。契約内容次第で柔軟な対応ができる点が特徴です。


任意後見では、合理的理由が認められる場合、家庭裁判所や後見監督人の同意なしに処分することが可能です。


法定後見では、住居の売却は家庭裁判所の許可が必要ですが、合理的な理由がある場合は許可されることもあります。

このように、家族信託は最も自由度が高く、法定後見は厳格な制限によって本人の保護が重視されています

費用の違い

家族信託では、初期費用として専門家への相談料(信託財産の1%程度が目安)と、公正証書作成費用などがかかります。毎月の費用は原則としてかかりませんが、信託契約内で受託者の報酬を設定することも可能です。


任意後見の初期費用は、司法書士に依頼した場合、10〜20万円程度かかります。毎月の費用は、主に以下の2つです。

  • 任意後見人への報酬(親族などの場合:0〜5万円/月、専門家の場合:3〜6万円/月)
  • 任意後見監督人への報酬

法定後見の初期費用は、司法書士に依頼した場合、10〜20万円程度かかります。さらに、毎月の費用は法定後見人への報酬として2〜6万円/月程度かかります。


費用相場は地域や事案によって変動が大きいため、あくまで目安として考えてください。また、さくらリーガルパートナーへ依頼した場合の料金目安は、以下からご確認いただけます。

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家族信託と成年後見のメリット・デメリット

家族信託と成年後見制度は、それぞれ異なる特徴を持ち、利用する状況によって向き不向きがあります。ここでは、家族信託と成年後見のメリット・デメリットを詳しく解説します。

家族信託 成年後見
メリット ・本人の希望に沿った財産管理が可能
・委託者を自分で決められる
・資産凍結を回避できる
・倒産隔離機能を有している
・遺言としての機能がある
・事業承継や二次相続以降にも活用可能
・成年後見制度よりも低コスト
・本人の預貯金を管理可能
・家族の使い込み防止できる
・詐欺や悪質な契約を本人に代わって取り消せる
・多様な法律行為や手続きを代行できる
デメリット ・身上監護権がない
・親族間トラブルが生じる可能性がある
・財産管理の責任が重く委任者を見つけづらい
・両親の同意が必要
・対応可能な専門家や金融機関が少ない
・財産管理を柔軟に行えない
・原則として途中でやめられない
・成年後見人は自由に選べない
・費用が発生する
・成年後見人が不正を犯す可能性がある

家族信託のメリット・デメリット

ここでは、家族信託の主なメリットとデメリットについて見ていきましょう。

家族信託のメリット

家族信託は、財産管理において本人の意思が反映されるほか、委託者を自分で決められるため、自由度が高い点が大きなメリットです。


通常、本人が亡くなったことを金融機関が認知すると預金口座が凍結されますが、家族信託をしておけば子どもが親の金銭を管理できるため、資産凍結を回避できます。


また、家族信託には遺言としての機能もあるため、遺族の遺産分割がスムーズに進むほか、事業承継や二次相続以降の資産承継にも役立ちます。


さらに、倒産隔離機能がある点も利点の一つです。信託財産は受託者自身の財産とは別に管理されるため、例えば受託者が倒産した場合でも、差し押さえ財産の対象外となり資産を守れます。


加えて、成年後見制度と比較して毎月の費用が原則かからないため、長期的にはコストを抑えられる点も魅力です。

家族信託のデメリット

成年後見制度と異なり、家族信託には身上監護権がないため、親の生活を管理し、見守ることはできません


例えば、親が施設に入居する際、代理人として子どもが入居契約を結ぶことはできません。身上監護の権利もないため、委託者の心身の健康管理や生活支援については別途対応が必要です。


また、委任者以外の親族が財産管理の内容に不満を感じ、親族間のトラブルに発展する可能性があります。親の財産管理には大きな責任を伴うため、委任者が見つかりにくいことも課題です。

さらに、子どもが家族信託を利用したくても、親が同意していなければ利用できません(双方の同意が必要)。家族信託は比較的新しい制度であるため、対応している専門家や金融機関が少なく、選択肢は限られているのが現状です。

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成年後見制度のメリット・デメリット

成年後見制度は、判断能力が低下した方の財産や生活を守るための公的な仕組みです。ここでは、成年後見制度の主なメリット・デメリットを解説します。

成年後見制度のメリット

成年後見制度を利用すると、本人の預貯金を適切に管理できるうえ、家族による使い込みを防止できます。また、本人が詐欺に遭ったり悪質な契約を結んでしまった場合、成年後見人が本人に代わって取り消すことが可能です。


加えて、成年後見人は本人に代わりさまざまな法律行為や手続きが可能です。例えば、福祉サービスや介護に関する手続き、入院や介護施設への入所手続きなどを代行できます。

裁判所の監督があることで、本人の権利が守られる安心感も大きなメリットです。

成年後見制度のデメリット

成年後見人が対応できる財産管理は、原則として保全行為となるため、被後見人の利益になり得る資産の運用や売却などができません。成年後見制度は一度利用すると、原則としてやめられないため、利用するかどうかは慎重に判断する必要があります。


また、成年後見人は裁判所が選任するため、自由に選ぶことはできません。初期費用や毎月の成年後見人への報酬がかかるため、経済的負担も考慮すべき点です。まれなケースではありますが、成年後見人が預貯金の使い込みなど不正を犯す可能性もゼロではありません。

家族信託と成年後見は併用できる?

家族信託と成年後見制度は、それぞれ異なる機能を持つため、状況によっては併用することで双方のメリットを活かせます。ただし、費用面や手続き上の注意点も存在します。


ここでは、併用が可能かどうかと、併用する際の注意点について解説します。

家族信託と成年後見は併用可能

前述の通り、家族信託と成年後見は併用できます。上手く併用すれば、それぞれのメリットを最大限に活かしつつ、デメリットを補い合えるでしょう。


本人の判断能力が正常なうちに家族信託を利用し、将来の判断能力が低下した場合に備えて任意後見制度も併用すると、柔軟な財産管理と身上監護が可能になります。例えば、家族信託で財産の管理・運用を行いながら、任意後見で医療や介護などの生活面をサポートする体制を整えられるのです。

併用する際の注意点

家族信託と成年後見を併用すると、両方の制度の費用がかかります


また、家族信託の受託者と任意後見人は、別の人にする必要があることも留意したいポイントです。これは、受託者の業務監督人は受益者であり、任意後見人はその受益者の代理人として受託者を監督する立場にあるため、受託者と任意後見人を同一人物が兼ねると「自分を自分で監督する」という利益相反関係が生じるためです。

併用を検討する際は、こうした制度上の制約や費用面を十分に理解したうえで、専門家に相談することをおすすめします。

家族信託を選ぶべきケースと成年後見を選ぶべきケース

家族信託と成年後見制度は、それぞれ異なる特徴を持つため、状況によって適した選択肢が異なります。財産の規模や管理の自由度、身上監護の必要性など、さまざまな要素を考慮して選びましょう。


ここでは、家族信託を選ぶべきケースと成年後見を選ぶべきケース、さらに併用が望ましいケースを具体的に紹介します。

家族信託が適しているケース

家族信託が適しているケースは以下の通りです。

  • 保有財産が高額な場合
  • 財産を自由に管理したい場合
  • 二次相続以降も決めておきたい場合
  • コストを抑えたい場合

保有財産が高額である場合

多額の預貯金や不動産を保有していると、将来的に資産凍結や相続時のトラブルのリスクが高まります。家族信託を利用すれば、信頼できる家族に財産管理を託し、柔軟に運用・処分できるため、高額資産を効率的かつ安全に管理できるでしょう。資産規模が大きいほど、家族信託のメリットを活かせます。 

財産を自由に管理したい場合

成年後見制度では財産管理が「保全行為」に限られ、積極的な運用や売却が難しい側面があります。家族信託なら契約内容で幅広い管理方法を定められるため、将来の資産活用や収益確保を望む場合に適しています。不動産の売却や組み替え、金融資産の運用など、状況に応じた柔軟な対応が可能です。

二次相続以降も指定しておきたい場合

遺言では一次相続までしか指定できませんが、家族信託では「妻が亡くなった後は子どもへ」といった二次相続以降の承継先まで決めておくことが可能です。そのため、複数世代にわたる資産承継を円滑に行いたい場合に有効な方法といえるでしょう。家族の状況や希望に応じて、長期的な資産承継の計画を立てられます。

コストを抑えたい場合

家族信託は初期費用こそかかりますが、成年後見制度のように毎月の報酬が発生しません。長期にわたって資産管理を行う場合、結果的に費用負担を抑えられる点で有利です。特に、数十年単位で管理が必要なケースでは、トータルコストの差が大きくなります。

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成年後見が適しているケース

成年後見が適しているケースは以下の通りです。

  • 本人の判断能力がすでに低下している場合
  • 保有財産が高額でない場合
  • 入院や介護施設入所など生活支援の手続きを任せたい場合

本人の判断能力がすでに低下している場合

家族信託は本人に判断能力があるうちでないと契約できません。そのため、すでに認知症が進行している場合は成年後見制度が唯一の選択肢となります。家庭裁判所の関与により、本人の権利を守りながら財産管理や生活支援を行えます。事後的な対応として、確実に本人を保護できる制度です。 

財産規模が大きくない場合

成年後見制度は主に財産を「守る」ための仕組みであり、運用や承継の工夫は必要としません。預貯金や年金程度の比較的シンプルな資産しかなく、複雑な財産管理をしないケースでは、家族信託より成年後見の方が適しています

入院や介護施設入所など生活支援の手続きを任せたい場合

成年後見人は身上監護権を持ち、医療や介護サービスに関する契約、入院・施設入居の手続きなどを代理で行えます。そのため、財産管理にとどまらず、生活全般を支える必要がある場合に有効です。医療や福祉の現場では、成年後見人の存在が手続きをスムーズにするケースも多くあります。

併用が望ましいケース

家族信託と成年後見制度の併用により、財産管理の柔軟性と生活面のサポートを両立できます。併用が望ましいケースは以下の通りです。

  • 財産管理と身上監護の両方が必要な場合 
  • 信託契約に含まれない財産もある場合
  • 家族の安心感を重視したい場合

財産管理と身上監護の両方が必要な場合

家族信託は財産管理には強い一方、身上監護権がありません。そこで、成年後見制度と併用すれば、資産運用の柔軟性と生活面の法的保護の両方を確保できます。例えば、不動産の管理は家族信託で行い、医療や介護の契約は任意後見人が担うといった役割分担が可能です。

信託契約に含まれない財産もある場合

家族信託では、契約に定めた財産のみを管理できます。それ以外の預貯金や動産などを包括的に管理するには、任意後見制度を組み合わせるのが有効です。すべての財産を信託契約に含めることが難しい場合でも、併用することで漏れなく管理できます。

家族の安心感を重視したい場合

2つの制度を併用すれば「財産は家族信託で守り、生活や医療面は成年後見で補う」という二重の備えになります。親族にとって安心感が大きく、トラブル予防にもつながります。包括的なサポート体制を整え、将来の不安を最小限にしたい場合に適しています

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家族信託と成年後見の違いを理解して最適な制度を選択しよう

家族信託と成年後見制度はそれぞれ特徴が異なり、メリット・デメリットがあります。


家族信託は財産管理の自由度が高く、本人の意思を反映しやすい一方、身上監護権がないという制約があります。


成年後見制度は裁判所の監督下で本人の権利を守る仕組みが整っていますが、財産管理の柔軟性に欠ける点が課題です。


両制度の違いと活用方法を正しく理解することで、高齢の親の生活面や資産面における備えを整えましょう。


「自分や家族にはどの制度が合っているのか」「併用すべきなのか」など迷うときは、専門家の視点で整理するのが安心です。

さくらリーガルパートナーでは、家族信託や成年後見の手続きを行っております。あなたとご家族の状況に合わせた最適なプランをご提案いたしますので、お気軽にご相談ください。

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